成年後見制度(法定後見・任意後見)

成年後見制度(法定後見・任意後見)

 

 

成年後見制度には、任意後見制度法定後見制度があります。

 

任意後見制度が事前の対策として、ご自身の判断能力が危うくなる前に、自身のの後見人になってほしい人を、あらかじめ自分で選んでおくことができるのに対し、法定後見制度は、ご自身の判断能力が無くなった後に、事後手続きとして、ご自身に代わって法律的な判断をしてくれる後見人を選任する制度です。

 

任意後見は公正証書の形式で契約されますが、具体的に誰に後見人を頼むだとか、どういった法律行為について代理権を与えるのかといったことについて、ご自身で設計することが可能です。

 

法定後見は家庭裁判所への申し立てによって開始されますが、後見人の選任は家庭裁判所により決定されます。代理権の範囲は、後見であれば法律行為についての包括的な代理権と財産管理権が一律に与えられます。

 

 

 

 

以下で事例を示し問題点を述べます

 

 

 

 

状況分析

 

@夫たけしの相続人は、妻はるこ・長男てつや・長女のりこの3人。法定相続分は図のとおり。

 

A遺言が無いため、夫たけしの相続に関して、相続人の3人で遺産分割協議をする必要がある。遺産分割協議は相続人の全員で行う必要がある。

 

B認知症の妻はるこは、民法上意思能力が無いと判断されるため遺産分割協議をすることはできない。

 

C遺産分割協議ができるよう、法定後見の申し立てをする。または法定相続分の割合で分割する。手段はこの二つとなり、他には方法がない。

 

D仮に法定後見制度を利用する場合でも、成年後見人は家庭裁判所が選任するため、希望者が後見人に就任できるとは限らない。

 

E仮に長女のりこが後見人に選任された場合でも、夫たけしの相続に関する遺産分割協議は利益相反行為に該当するため、長女のりこが妻はるこを代理することはできない。この場合、妻はるこに代わって遺産分割協議を行う、特別代理人の選任審判を、家庭裁判所に申し立てる必要がある。

 

 

問題点

 

@整理すると、上記事例では二つの方法があり、一つ目は家庭裁判所の介入により法定後見制度により遺産分割協議をする方法。二つ目は法定相続分の割合により分割する方法。

 

A法定後見制度を利用する場合のリスク・・・多額の費用が掛かり、成年後見人の報酬は原則、被後見人が亡くなるまで発生し続ける。また、知らない人が妻はるこの後見人となり、法律行為の代理権及び、財産管理権を持つことを家族は覚悟しなければならない。

 

B法定相続の割合によって分割するリスク・・・遺産に不動産が含まれる場合、当然相続人の共有になるが、不動産の共有には様々なリスクがあり、例を挙げると、売却の際に共有者全員の承諾が必要となり不動産の処分性が害される。共有持分が相続の対象になるケースもあり、権利関係が複雑になる。税金面では二次相続を一切無視した相続登記がされてしまうといったことが考えられる。

 

C妻はるこの介護費用や、入所費用捻出ののために、自宅不動産を売却しなければならない状況となった時に、上記二つのどちらの方法によった場合も、売却が困難となることが考えられる。法定後見の場合には、居住用不動産を成年後見人が売却するには、家庭裁判所の許可が必要となる。人が生きていく上で住居はとても重要なものであり、これを処分してしまうと、被後見人の身上や精神に大きな影響を与えてしまう可能性があり、そのような不都合を回避するための制度趣旨による。法定相続の場合は認知症である妻はるこの持分が登記されている。売却には意思能力が必要となるが認知症の妻はるこには意思能力が無いため、売却は不可能となる。

 

結論

 

成年後見制度は一つの制度としては万能ではない。遺言や家族信託など他の制度と併用することにより相続対策として有効なものとなる。成年後見制度を一つのツールと考え、相続対策を行っていくことが重要となる。